7月 | 2017 | 春は花

安田念珠店 オフィシャルサイト

春は花

「知らない」という親切

私は幼い頃、疑問に思ったことは直ぐに父か母に尋ねていました。1つの質問で終われば良いのですが、返答に対してまた質問をして、最後には「知らない!」と言われたことが度々ありました。
正直に言って、私は「不親切」だと思っていました。結局、疑問が解消されなかったのですから。そこで母は、あまりに私がしつこく尋ねるので『こども大百科』(小学館・刊)を買ってくれました。先ずはこれを調べなさい、ということだったのでしょうか(笑)


ところが、大人になってから、質問に対して「知らない」と答えることは決して「不親切」ではないことが分かりました。
有名な問答があるので、ご紹介したいと思います。
「達磨さん」として有名な達磨大師は老齢になってから、インドより中国へ行きました。
当時の中国にはりょう という王朝の武帝ぶてい という皇帝が居ました。武帝は仏教を篤く信仰しており、「仏心天子ぶっしんてんし 」と呼ばれていました。
そんな武帝が高名な達磨大師が中国にやって来たと知り、2人は対面を果たします。
まず、武帝が「私はこれまで寺を建て、経を写し、僧尼を供養してきたが、どんな功徳があるか?」と尋ねると、達磨大師は「無功徳(何の功徳もありません)」と答えます。
これに続く問答が『従容録しょうようろく 』の第二則(本則)にあります。(『碧巌録へきがんろく 』第一則(本則)にも同様の記述があります。)
【書き下し文】
梁の武帝、達磨大師に問う、「如何いか なるか是れ聖諦しょうたい 第一義」
磨云く、「廓然無聖かくねんむしょう
帝云く、「朕に対する者は誰ぞ」
磨云く、「不識ふしき 」。
かな はず。遂に江を渡って少林に至って、面壁九年。
【現代語訳】(かなり意訳しています)
梁の武帝は達磨大師に尋ねました。「仏法の最上の教えとはどのようなものか?」
達磨大師は「仏の教えは、他のものと関係させること、比べて考えるようなことはしない。どれが尊くてどれが尊くないなどというものはない。」と答えた。
そこで武帝は「尊い道理も何もないのであれば、それを伝えるために私の前に居るあなたは一体何者なのか?」と尋ねました。
達磨大師は「そんなことは知らない。」と答えました。
武帝は達磨大師の言っていることを理解することができませんでした。達磨大師は遂に揚子江を渡り、少林寺に入って、九年間、壁に向かって坐禅をしました。
【春見文勝『提唱碧巌録集 全 自筆』(私家版、1982年)の函に描かれている達磨大師の画です。】
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ここで達磨大師が言った「不識(そんなことは知らない)」という言葉は、「I don’t know.」ではありません。頭で考えたことや書物で学んだ知識などという「人知」でははかることはできない、という意味です。


最初に紹介しました私の例では、「知らない!」と言ってはいるものの、『こども大百科』を買ってくる行動は、私の成長を促す母の心遣いであったのだと現在では理解しています。
「不知最も親切なり」という言葉もあり、「知らない」と返答することも決して「不親切」ではないということを、達磨大師と武帝の問答から学びました。

念珠の素材は何が良いのか?

念珠は一般的に「数珠」と言われます。というのは、マントラといわれる呪文をどれだけ唱えたかを把握するのが念珠の起源だから、だと考えられています。「呪文」というと魔法使いをイメージしてしまいます(笑)が、一番分かりやすい「呪文」が念仏です。
弊社は誓願寺というお寺の門前に位置しております。誓願寺は浄土宗西山深草派の総本山です。
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浄土宗は以下の4派に大きく分かれています。
○鎮西派(一般的に「浄土宗」と呼ばれます。)
→総本山:知恩院
○西山派
・浄土宗西山禅林派
→総本山:永観堂 禅林寺
・西山浄土宗
→総本山:粟生光明寺
・浄土宗西山深草派
→総本山:誓願寺
現在は4派に分かれていますが、そのすべては法然上人の教えから始まった宗派です。
法然上人には沢山の著作がありますが、私が一番読みやすかったのは『一百四十五箇条問答』という著作です。これは一問一答形式で法然上人が質問にお答えくださっているものです。
145の問答の中で「数珠」に関する問答が3つあります。そのうちの1つをご紹介します。
一三七
【原文】
一つ、数珠には桜、栗忌むと申し候はいかに。
答ふ、さる事候はず。
【現代語訳】
「数珠に桜や栗を使うのは縁起が良くないということはどうでしょうか?」
「お答えします。そのようなことはございません。」
桜の木や栗の実が具体例として挙げられています。諸説ありますが、桜はパッと咲いてパッと散るので、栗はお寺の「庫裏」と発音が同じなので縁起が悪いと考えられたそうです。私はこの問答から次のことを解釈しました。すなわち、高貴なものを身につけることが大切なのではなく、身近なものでも良いから只管に念仏を唱えることが大切なのだ、ということです。
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弊社でも桜の木を素材とした念珠を扱っております。上の画像の念珠が桜の材を使った念珠です。使い続けると味が出る良い念珠です。

法然上人は阿弥陀経を漢音、呉音、訓読の3通りで毎日唱えられたそうです。凄まじいことですよね。
これだけ阿弥陀経を唱えられた法然上人が「只管に念仏を唱えなさい」と説かれるのですから、念仏には凄い力がありそうな気がします。
身近なものと共に念仏を唱える。念珠は特別なものではなく、身近なものなのだという感覚をお持ち下さると、弊社としては大変嬉しく思います。

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一百四十五箇条問答――法然が教えるはじめての仏教

著者:法然 
訳・解説:石上善應 
出版社:筑摩書房
発売日: 2017/07/10
メディア: 文庫本
参考URL:http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480098061/
(筑摩書房)

 

祇園祭

暑い夏です。ただ、凄まじい雨も降り、九州北部では豪雨被害に遭われた方々が居られます。先ずは一刻も早い復興、復旧をお祈り致します。


7月も半ばになり、本格的な夏になりました。京の夏の風物詩といえば祇園祭です。
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山鉾が建ち、京都の街は賑わいます。宵山などでは観光や様々な目的で大勢の方々が集われます。
祇園祭は疫病が流行した平安時代に、平癒を願って町衆達が祇園社、現在の八坂神社に奉納したのがはじまりと言われています。祇園祭も「祈り」が起源なのです。それぞれの鉾や山に様々なご利益があるのもそのためです。
町衆文化ですから、西陣織などの京都の職人技が山鉾のあちこちに見られます。祭を通じて京都の伝統技術を体感できるのも祇園祭の魅力の1つです。
先週お話をしました七夕もそうですが、日本の神様には「期間限定の神様」が沢山居られるように感じます。火之神や水之神のような「分野別の神様」、そして「期間限定の神様」とありとあらゆる場所・時間に神様が宿っておられるのだと感じます。まさに「八百万神」です。
日本の神様は賑やかな所がお好きです。天岩戸のお話はその最たる例だと思います。祇園祭にもお出掛けになると、賑やかな所へお越しの神様にお出逢いが叶うかもしれません。

七夕の日に

先週は更新が滞り、申し訳ありませんでした。先週は京都を離れておりました。その内容は次回以降にご紹介することとします。


さて、本日は「七夕」です。織姫と彦星が一年に一度会うことが許された日です。
正確には旧暦の七月七日なので、現在の暦で考えれば八月のお盆の前の季節になります。「七夕」と同じ発音をする「棚幡」が旧暦の七月七日に京都でも飾られます。この「棚幡」は精霊をお迎えするために亡くなった人の戒名を書いた幡を吊るしたものです。飾るのが旧暦七月七日の夕刻だったので「七夕」と表記されるようになったそうです。
「七夕」は仏教起源のお話ではありません。日本における自然への信仰が、その後に伝来した仏教と融合して今のような形になったと言われています。
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話は戻って、織姫と彦星の物語についてです。ご存知だとは思いますが、一応話の概略だけを記します。
織姫は神様の娘で機織りの名人、彦星は勤勉な牛使いの青年でした。神様は身なりに構わず働き続ける娘を不憫に思い、勤勉な青年の彦星を娘の結婚相手とします。彦星が娘・織姫を幸せにしてくれるだろうと思って。
織姫と彦星は結婚後、それまでの勤勉さが嘘のように怠惰になります。織姫が織るべき天の衣が不足し、牛たちもやせ細っていきました。神様は2人に働くように言いましたが、2人は働こうとしなかったため、神様は怒って2人の間を「天の川」で引き離しました。引き離したものの、2人とも悲しみに暮れて一向に働かなかったため、一年に一度、七月七日だけ会うことを許しました。その結果、織姫と彦星は真面目に働くようになりました。
というお話です。

私は幼稚園の頃にこの話を聞いて「何て勝手な神様なんだ!」と思いました。神様は自分の都合で織姫と彦星の夫婦を無理やり引き離しています。今思うと、日本の神様はどこか人間臭い感じがして親近感が湧くのですが、まだ幼かったころは織姫と彦星が可哀想だなと思ったものでした。

最近、色々な方とお話しをしていると、失敗をしたり間違いを犯すことを極度に恐れているように感じることが多々あります。「失敗は成功の基」などの格言があるように、失敗や間違いは生きていく上で重要なことなのだと思います。日本の神話やギリシア神話を読んでいると、「神様でも失敗をしたり間違いを犯したりするのだなぁ」という感想を抱きます。
失敗を恐れずにチャレンジすることが大事なことなのだ、だって神様でも失敗しているんだから、と思うようにしています。
「七夕」から派生して、私の最近の感想をお話ししました。

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