「十代目の部屋」コラム12 ‐ 天和3年(1683年)創業の安田念珠店

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第12回 「歎異抄(たんにしょう)」の一節
稀代の宗教書といわれる「歎異抄(たんにしょう)」という書物があります。今日、書店の仏教関係の書棚には「歎異抄」に関する書物が溢れていますから、この名前をご存じの方が多いはずです。これは親鸞聖人の門弟である唯円(ゆいえん)が、聖人の真の教えを後世に伝えようとして、その語録を書き留めた書物です。

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「この書は親鸞の語録を本とし、それによって親鸞の死後に現れた異説を嘆きつつ、親鸞の正意を伝えようとしたものである。その作者は、いろいろと考証されて来たが、今日では本文中に現われる(第九章、第十三章)唯円であるということがほぼ定説となっている。」

(金子大栄著 歎異抄 1931年 岩波文庫 5頁)

ある人が「もし、私が無人島に流されたとしても、『歎異抄』が手元にあれば孤独でも生きて行ける。」といったといわれるほど、人の心に勇気を与える書物だといわれています。

さて、この「歎異抄」の第二章(第二条)に次の様な一節があるのです。

「たとひ法然聖人にすかされまひらせて、念仏して地獄におちたりとも、後悔すべからずさふらふ。」

(金子大栄著 前掲書 43頁)

現代語訳は次の様になります。

「たとえ法然聖人がおっしゃったことがでたらめであり、私は法然聖人にだまされて念仏をしたため地獄におちたとしても、ちっとも後悔いたしはしません。」

(梅原猛著 歎異抄 2000年 講談社学術文庫 24頁)

作者唯円は、その場にいて実際に親鸞聖人のこの言葉を聞いただろうといわれているのですが、この言葉が親鸞聖人の口から発せられたのは、次の様な状況下でした。

「越後流罪が許された親鸞は、すぐに法然のように京都へ帰らず、常陸国の稲田に居を定めて、極楽往生の道を説いた。・・・・・・ところが親鸞は、東国にあること二十余年にして、飄然(ひょうぜん)として一人京都へ帰った。・・・・・・・親鸞の帰京後、門弟たちは親を失える羊のごとく迷い、さまざまな異端邪説が起こった。この異議を正すために、親鸞はわが子善鸞(ぜんらん)を東国に送ったが、この善鸞派遣はいっそう事態を紛糾に陥れた。善鸞が、自分は親からひそかに伝えられた往生の方法を知り、いままで親鸞及びその門弟が伝えた念仏の道は、真の極楽往生の道ではないといったからである。そこで東国の門弟、信者は、親鸞にその旨をただそうとはるばる上京してきたのである。」 

(梅原猛著 前掲書 25頁、26頁)

親鸞聖人は上京してきた東国の門弟たちに、釈尊、無量寿経、中国の善導大師、法然上人、そして、親鸞聖人とつながる念仏の系譜の正しさを説くのです。その時に、東国の門弟たちに上記の言葉が発せられたのです。(この詳しい内容は梅原猛先生の上記著書をご覧下さい。)

私は、初めてこの一節を読んだ時、衝撃を受けました。「たとひ法然聖人にすかされまひらせて・・・・・・・・・・」 これは、すごい言葉だと思いました。自分の師匠、先生である法然上人の言葉、教えを信じて念仏の布教に邁進してきた親鸞聖人の口から、「法然上人にだまされていたとしても」 という言葉が発せられるわけですから、これは普通では言えません。そして、この言葉は「歎異抄」を彩る多くの逆説表現の一つですから、「法然上人の教えは絶対に間違っていないのだ。」と強く主張している言葉でもあるわけです。ここに、親鸞聖人の信仰の恐ろしいくらいの深さが見てとれます。見方を変えれば、人間としてこれだけの深い信仰心を持つことが出来る可能性を、親鸞聖人は私たちに示してくれているとも思えます。

この一節を読むとき、誰もが親鸞聖人の信仰の深さに胸打たれます。日本を代表する仏教の宗派の宗祖の一人である親鸞聖人の信仰の深さは、人間としての一個人の信仰であるだけでなく、宗教人としてその後の歴史の中で数知れないほどの多くの日本人の心に力を与えて続けて来たといえます。生身の一個の人間の精神が時代を押し動かすのです。肉体や物質的存在は、いずれは朽ち果ててしまします。しかし心は次々と伝えて行くことが出来ます。どんなに時代が変わろうと、信仰を持つ心は朽ち果てることはないと思います。

(※引用文献中の表現「法然聖人」は原文のまま用いました。)

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